2026年9月15日、東京・後楽園ホールで女子ボクシング興行「DANGAN」が開催された。
メインでは松田恵里がロリト麻理菜との元王者対決を判定で制した。日本女子フェザー級王座決定戦では古川のどかが若狭与志枝を完封。山本美憂は国内プロボクシングデビュー戦を3回TKO勝ちで飾った。
全9試合をBOXING RAISEで視聴した元A級プロボクサーが、公式結果と勝敗を分けたポイントを振り返る。
DANGAN 9.15の全試合結果
| 試合 | 結果 |
|---|---|
| 女子アトム級8回戦 松田恵里vsロリト麻理菜 | 松田が判定3-0(77-75×3)で勝利 |
| 日本女子フェザー級王座決定戦6回戦 若狭与志枝vs古川のどか | 古川が判定3-0(60-54、59-55×2)で勝利 |
| 女子アトム級6回戦 守隨あゆみvs安井千晶 | 守隨が判定3-0(60-54×2、59-55)で勝利 |
| 女子フライ級4回戦 田口智香vs山本美憂 | 山本が3回1分51秒TKO勝ち |
| 女子バンタム級4回戦 玉城みくvs福井凛 | 玉城が判定2-0(40-36×2、38-38)で勝利 |
| 女子ミニマム級6回戦 片柳歩美vs瀬川紗代 | 瀬川が判定2-0(58-56×2、57-57)で勝利 |
| 女子アトム級6回戦 菊地夏芽vs渡邉恵 | 引き分け(59-55渡邉、58-56菊地、57-57) |
| 女子アトム級4回戦 わかし吉田vs阿部沙紀 | 引き分け(40-36阿部、38-38×2) |
| 50.0kg契約女子4回戦 村田モモvs星野みなみ | 星野が4回42秒TKO勝ち |
松田恵里vsロリト麻理菜|防御から攻撃へつなげた松田が接戦を制す
試合結果
松田恵里が77-75×3の判定3-0で勝利。
序盤から互いに距離とタイミングを探り、簡単には打ち合わない技術戦となった。そのなかで先に明確な有効打を見せたのは松田。1回、左ストレートから返した右フックがロリトの顔面を捉え、体勢を崩させた。
松田は足を使って角度を変えるだけでなく、ときには自ら距離を詰める。上体も動かし、パンチの出どころを絞らせなかった。ロリトも動きは悪くなかったが、攻めが次第に単調になり、クリーンヒットでは松田がわずかに上回っていた。
6回には左ストレートをきっかけに前へ出ると、ボディーアッパーから顔面へのストレート、さらにフックまでつないで攻勢を印象づけた。7回も松田が先に仕掛け、ロリトは入ってくるところへパンチを合わせたものの、全体としては後手に回った。
最終8回は激しい打ち合い。それでも松田はガードを固めるだけではなく、ダッキング、スリッピング、ウィービングを使ってパンチを外し、そのままリターンへつなげた。
攻撃の種類だけでなく、防御を次の攻撃へ結びつけたことが接戦を勝ち切った要因だったと見る。筆者の採点も77-75で松田だった。
若狭与志枝vs古川のどか|距離を支配した古川が新王者に
試合結果
古川のどかが60-54、59-55×2の判定3-0で勝利し、日本女子フェザー級王座を獲得。
この日の全9試合で、最も完成度の高いボクシングを見せたのが古川だった。
相手の周囲を回りながらジャブを突き、横の動きだけでなく前後の出入りもフェイントとして使う。若狭の攻撃を紙一重で外すと、すぐにリターンのジャブで前進を止め、ストレートやフックへつないだ。
距離が詰まった場面では若狭のフックを受けることもあったが、無理に打ち合わずクリンチで流れを切る。若狭の得意な展開に長く付き合わなかったことも大きい。
古川はジャブを当てて終わらない。そこから右、左フックへ攻撃を広げ、右ボディーから顔面へ返す上下の打ち分けも効果的だった。左右、前後、そして上下。リングを立体的に使いながら、最後まで足を止めなかった。
若狭は古川の足を捕まえられず、スピードにも対応しきれないまま6回を終えた。筆者は60-54。完封と表現してもよい内容だった。
田口智香vs山本美憂|左のカウンターから一気に仕留める
試合結果
山本美憂が3回1分51秒TKO勝ち。
細かなステップで前進する田口を、サウスポーの山本が迎え撃つ構図。初回の山本はやや足取りが重く、左のオーバーハンドやボディーフックなど、大きなパンチが目立った。
2回に入るとステップが軽くなり、攻撃にも変化が出る。ただし、田口の圧力を受けて下がる場面は続いた。一方の田口も踏み込む際にパンチが大きくなり、打ち終わりにガードが空いていた。
決着は3回。山本はガードを固めて下がりながら、左のカウンターを狙う。田口が左フックを打ち終えたところへ左を合わせ、最初のダウンを奪った。
再開後も慌てて飛び込まず、相手の状態を見ながら距離を詰める。右フックで田口をよろめかせ、さらに左を重ねたところでレフェリーが試合を止めた。
RIZINなどでの経歴から、フィジカルを前面に出すパワー型を想像していた。しかし実際に勝機を生んだのは、サウスポーの角度を生かした左のカウンターだった。力任せではなく、相手の打ち終わりを狙って仕留めた点を評価したい。
セコンドには元世界2階級王者の長谷川穂積氏が就いた。試合後には、スパーリングでも山本が左でダウンを奪っていたと明かしている。今回の一戦だけで指導による変化を断定はできないが、左を勝負どころで使う準備は積んできたことがうかがえる。
山本は52歳42日で国内公式戦に出場し、日本国内の最年長記録を更新。国内デビュー戦でプロ初勝利も手にした。試合後の発言や記録の詳細は、ゴング格闘技の記事で確認できる。
田口は前進そのものは機能していたが、最後は距離を詰めすぎた。相手の強いパンチが最も生きる位置へ入る際には、ガードを閉じるか、先に手を出して山本の左を封じる必要があった。
玉城みくvs福井凛|ダウン後も圧力を失わなかった玉城
試合結果
玉城みくが40-36×2、38-38の判定2-0で勝利。
初回から接近戦となり、至近距離で福井の右ショートが入り、玉城がダウン。しかし大きなダメージは見せず、再開後は頭を振りながらジャブで入り、細かなパンチを重ねてダウンを奪い返した。
福井のパンチは丁寧でコンパクト。一方の玉城は一発の力強さに加え、ボディーからフックへつなぐ連続攻撃があった。フィジカルと手数で前へ出続け、福井に自分の距離で戦う時間を与えなかった。
ただし、左右のボディーを連打する際に顔面のガードが空く。初回の被弾も、接近戦で攻撃へ意識が寄った瞬間だった。今後レベルが上がれば、ボディーを狙ったところへアッパーやショートを合わせられる危険がある。
福井はジャブが良かっただけに、足を使って距離を保ち、ワンツーを中心に組み立てる時間を増やしたかった。玉城のボディーに対して、ブロックした手でアッパーを返すなど、侵入をためらわせる一打があれば展開は変わったはずだ。
ダウンを奪われても圧力を失わなかったスタミナとフィジカルは、玉城の明確な強みだった。
守隨あゆみvs安井千晶|乱戦に飲まれず守隨が判定勝ち
試合結果
守隨あゆみが60-54×2、59-55の判定3-0で勝利。
安井は開始のゴングと同時に走り込み、奇襲を仕掛けた。その後も接近戦を求め、低い姿勢から頭ごと入るように距離を詰める。守隨にとってやりにくい相手だったが、ペースを大きく乱されなかった。
3回以降は守隨が自分の距離で組み立て始めたものの、安井の入り方に付き合って抱き合う場面も増えた。もう少し足を使い、安井が頭を下げて入るところへバックステップからワンツーを返す。あるいはアッパーを置く。そうした迎撃があれば、より明確に差を示せたと思う。
クリンチで相手の体を押さえ、攻撃を寸断するのも技術の一つ。打ち合いだけで解決せず、相手にボクシングをさせない選択肢も使いたかった。
安井は積極的に仕掛けたが、攻防が乱れてクリーンヒットにつながらない。守隨は難しい展開でも冷静さを失わず、自分のボクシングへ戻そうとしたことが勝利につながった。
片柳歩美vs瀬川紗代|打った後も動いた瀬川が攻めを空転させる
試合結果
瀬川紗代が58-56×2、57-57の判定2-0で勝利。
オーソドックスの瀬川とサウスポーの片柳。初回から積極的に動いた瀬川は、前足を相手の外側へ置き、右ボディーフックを起点に攻めた。前手で片柳の右を触りながら、ジャブを出すというより距離を細かく調整していたのも印象に残った。
距離ができると外側のポジションを取り、右ボディーから顔面へ返す。右を打った後は頭を振るか、バックステップで射程外へ出る。攻撃後まで動きを止めなかった。
サウスポー対オーソドックスでは、前足を相手の外へ置くことがセオリーとして語られる。ただし、外を取ること自体が目的ではない。そこから強いパンチを通し、相手の攻撃線から外れて初めて意味を持つ。その点で瀬川は位置取りを攻防の両方へつなげていた。
片柳はフォームの整ったボクシングを見せたが、攻撃のきっかけをつかめない。瀬川が頭を振り、上下に打ち分け、打った後も動き続けたことで、狙いを定められなかった。
1者が57-57としたことには驚いた。筆者の採点は58-56で瀬川。採点が読み上げられた際には、会場からもざわめきが起きていた。
菊地夏芽vs渡邉恵|渡邉のジャブと頭の位置をどう評価するか
試合結果
59-55で渡邉、58-56で菊地、57-57。三者三様の採点で引き分けとなった。
初回から積極的に仕掛けたのは渡邉。頭を振り、ステップを踏みながらジャブで圧力をかけた。菊地はやや後手に回り、攻めも直線的。内、外、内、あるいは上下とパンチを散らせず、狙いが読まれやすかった。
この試合で差になったと感じたのは、両者の頭の位置だ。
渡邉は前へ出る際も頭を動かすため、菊地のジャブやストレートを芯で受けにくい。相手のジャブを外しながら打つ自分のジャブがよく入り、そこから追撃して、下がる菊地を逃さなかった。
対する菊地は、直線的に攻めた後、渡邉に前へ出られるとそのまま下がる場面が多い。後退しながらのパンチは体重を乗せにくく、勢いに乗った相手を押し返すだけの威力を出せなかった。
筆者の採点は60-54で渡邉。ジャブの有効性、手数、スピード、リングの主導権を通して見れば、渡邉が全ラウンドを取ったと判断した。公式採点との差は大きく、結果を聞いた渡邉の表情にも驚きが表れていた。
採点は、単に前へ出たかではなく、有効打、攻勢、ディフェンス、リング・ジェネラルシップをラウンドごとに評価する。詳しい仕組みは、ボクシングの採点基準|判定5連敗を経験した元A級プロが解説で紹介している。
わかし吉田vs阿部沙紀|低い入りとサイドへの動きが生んだ採点差
試合結果
40-36で阿部、38-38×2。阿部を支持したジャッジは1人にとどまり、試合は引き分けとなった。
阿部はサイドへ回りながら、低い姿勢から一気に距離を詰める。横の動きと素早い侵入にメリハリがあり、わかしは上からパンチを打ち下ろして対応したものの、大きな振りが空転する場面が目立った。
阿部が入るたびにすぐダッキングするため、わかしは自分のテンポで連打をつくれない。阿部が細かなパンチを積み重ねてポイントを取ったように見えた。筆者の採点は40-36で阿部。公式採点が1者のフルマークと2者のドローに分かれたことは意外だった。
一方で、阿部は頭を下げすぎる場面がある。反則として注意されない範囲であっても、見栄えや次の攻撃へのつながりを考えると、顔を上げたまま同じスピードで入れる方がボクシングの完成度は高くなる。
わかしが前へ出る相手を正面で受け止めるなら、もう一段重心を下げ、ワンツーだけでなくアッパーも使って侵入を止めたい。足を使って下がりながらポイントを拾うなど、展開に応じてプランを変える幅も必要に感じた。
村田モモvs星野みなみ|長身を生かした右ショートで決着
試合結果
星野みなみが4回42秒TKO勝ち。
長身の星野に対し、村田は開始から強引に距離を詰めて大きなパンチを振った。しかし攻防が乱れ、打つ際にガードが空く。一方の星野は自分の形を崩さず、高い位置からワンツーで迎え撃った。
試合を通して前へ押したのも星野。村田を下がらせながらワンツーを打ち、振りの大きなパンチの隙へ正確に返した。村田もボディーから顔面へつなげたが、前進時の被弾が多かった。
最後は接近戦での打ち合い。星野の右ショートが村田の顎を捉えたところで、レフェリーが試合を止めた。
星野は勝ち切ったものの、相手の激しい攻めに付き合い、必要のない被弾もあった。長身とワンツーという強みを考えれば、中間距離を保つ時間を増やした方が安定する。距離を潰される前にジャブで止め、入られたら位置を変える。そうすれば不意のダウンをもらう危険も減る。
村田はパンチを受けることを前提に、正面から押し込む形では今後のダメージが心配だ。まずはガードを閉じ、ジャブから丁寧に距離を詰めたい。前進力を生かすためにも、相手のパンチを外して入る手順が必要になる。
女子2分制の興行を通して感じたこと
今回、女子ボクシングの興行を最初から最後まで見るのは初めてだった。
最も強く感じたのは、1ラウンド2分という時間が試合のテンポに与える影響だ。男子の3分制と採点の基本は同じでも、1ラウンドを組み立てる感覚は異なる。
様子を見る時間が長くなると、明確な攻勢を示せないままラウンドが終わる。そのため今回の興行では、短い時間で優勢を印象づけようと、先手を取って前へ出る試合が多かった。
ただし、前進と打ち合いだけが2分制への答えではない。
古川は足を止めず、相手の攻撃を外してすぐに返すことで、短いラウンドのなかでも主導権を明確にした。多くのパンチを交換せずとも、自分だけが当て、相手には打たせない。その技術が最も際立った試合だった。
今回の内容に限って個人的なベストパフォーマンスを挙げるなら、次の3選手になる。
- 古川のどか――距離、足、ジャブを使い、若狭にほとんど何もさせなかった
- 山本美憂――左のカウンターで流れを変え、仕留めるところまでつなげた
- 玉城みく――ダウン後も崩れず、フィジカル、手数、圧力を維持した
性別による違いとして一括りにするのではなく、2分という限られた時間を各選手がどう使うかを見る。そこに女子ボクシングならではの観戦ポイントがあると感じた。
まとめ
DANGAN女子興行のメインは、攻撃の多彩さと防御後のリターンで上回った松田恵里が接戦を制した。
古川のどかは距離と足を支配し、日本女子フェザー級王座を獲得。山本美憂は田口智香の打ち終わりへ左を合わせ、国内デビュー戦を3回TKO勝ちで飾った。
2分制では序盤から先手を取ることが重要になる一方、ただ前へ出るだけではポイントにつながらない。短い時間のなかで有効打を残し、打った後に相手の反撃を受けないこと。その差が、今回の各試合の勝敗にはっきり表れていた。


コメント