「プロボクサーは1試合でいくらもらえるのか」。ボクシングを始めたい人にも、試合を見ている人にも気になる話だと思う。しかし、ファイトマネーの額だけを聞いても、選手が実際に受け取る金額はわからない。
私は現役時代、試合の報酬とは別に、チケット販売に応じたキックバックを受け取っていた。そこから試合に関係する費用などが差し引かれる。今回、手元に残っていたB級時代の明細3件を基に、その流れを具体的に紹介する。
当時は会社員として働きながら試合に出ていた。以下の明細も、そのころの私自身の記録だ。
- 当時のB級の基本額は1試合10万円。ジムの取り分33%を引くと、選手分は計算上6万7,000円
- 明細3件の差引残は7万5,500~18万7,300円。大きな差を生んだのはチケットのキックバック
- 私が経験した通常の試合では、勝者に自動的に賞金が支払われる仕組みはなかった
以下の金額と割合は、私が現役だった当時の経験だ。現在の全選手に共通する最低報酬や、すべてのジムで適用される条件を示すものではない。
私のファイトマネー明細3件を比較
私の当時のB級の基本額は1試合10万円で、そこからジムが33%を受け取り、選手分は計算上6万7,000円だった。この計算と、実際の明細に記された金額を並べる。明細は資料A・B・Cと表記した。
| 項目 | 明細A | 明細B | 明細C |
|---|---|---|---|
| 当時のB級基本額 | 100,000円 | 100,000円 | 100,000円 |
| ジムの取り分(33%) | −33,000円 | −33,000円 | −33,000円 |
| 選手分の計算額 | 67,000円 | 67,000円 | 67,000円 |
| 明細のファイトマネー欄 | 60,700円 | 67,000円 | 67,000円 |
| チケットのキックバック | 48,000円 | 48,600円 | 144,000円 |
| 明細の収入小計 | 108,700円 | 115,600円 | 211,000円 |
| 明細に記された差引残 | 75,500円 | 96,900円 | 187,300円 |
※基本額・ジムの取り分・選手分の計算額は、当時の私の条件を基に加えた行で、明細にそのまま印字された項目ではない。明細Aのファイトマネー欄は計算額より6,300円少ないが、理由は資料から確認できない。

この3件は、2020年12月から2021年12月にかけての試合の明細だ。コロナ禍で会場の収容人数に制限があり、外出を控える人もいたため、私にはチケットを売りづらかった。一方、販売できる席が限られ、チケット1枚あたりの価格はコロナ前より高くなっていた。売りづらさと単価の上昇が重なった時期の数字なので、キックバック額だけを見て平時の販売枚数や収入を推し量ることはできない。
3件の「差引残」は合計35万9,700円。ただし、明細に載っていない練習・移動などの支出や、別途受け取ったお金は含まれない。この3件は私個人の記録であり、選手全体の平均でもない。
一番目を引くのは、同じB級の明細でも、差引残が7万5,500円から18万7,300円まで開いていることだ。主な違いはチケットのキックバックだった。
C級・B級・A級で、私の基本額はどう変わったか
日本ボクシングコミッション(JBC)の説明では、ボクサーのライセンスはC級が4回戦、B級が6回戦まで、A級が8回戦以上に対応する。ここでいう級は体重の階級ではなく、ライセンスの区分だ。
C級・B級・A級と試合ラウンド数の関係は、ボクシングの4回戦・6回戦・8回戦は何が違う?で詳しく解説しています。
私の現役当時、基本となるファイトマネーはC級で6万円、B級で10万円、A級で15万円だった。所属ジムが33%を受け取り、選手に回る金額は次の計算になる。
| 私の当時の区分 | 基本額 | ジムの取り分33%を引いた計算額 |
|---|---|---|
| C級 | 60,000円 | 40,200円 |
| B級 | 100,000円 | 67,000円 |
| A級 | 150,000円 | 100,500円 |
B級の明細B・Cに6万7,000円と記されているのは、この計算と一致する。興行や所属先、契約によって条件は違いうるため、表の金額を現在の一律の相場とは捉えないでほしい。
ファイトマネーの渡し方もジムによって若干異なる。私の場合は基本額からジムの取り分を差し引いた金額を受け取っていたが、ジムによっては、ファイトマネー相当額の全額を現金ではなくチケットで選手に渡すこともある。その場合、選手は受け取ったチケットを自分で販売し、売れた分が収入になる。額面上のファイトマネーだけでなく、現金で支払われるのか、チケットで渡されるのか、売れ残ったチケットをどう扱うのかまで確認しなければ、選手が実際に受け取る金額はわからない。
勝てば賞金が出る?ファイトマネーとの違い
試合に勝ったら、ファイトマネーとは別に賞金が出るのか。私が経験した通常の試合では、勝者に自動的に賞金が支払われる仕組みはなかった。選手が受け取るのは、基本となるファイトマネーと、私の場合はチケット販売に応じたキックバックなどだ。
例外として、優勝賞金を設けたトーナメントが開催されることはある。たとえば「フェニックスバトル・スーパーフェザー級トーナメント」は、大会の配信元であるLeminoの案内で優勝賞金1,000万円と紹介されている。ただし、これは特定の大会で優勝者に設定された賞金だ。一般的な1試合のファイトマネーや、参加選手全員が受け取る金額を示しているわけではない。発表された賞金額から、優勝者に実際に残る金額までは判断できない。
チケットのキックバックで収入は大きく変わる
明細AとCでは、キックバックが4万8,000円から14万4,000円に増えている。その差は9万6,000円だ。この3件では、ファイトマネー欄の差6,300円よりも、チケット収入の差の方が大きかった。
3件の合計でも、ファイトマネー欄は19万4,700円、キックバックは24万600円で、キックバックの方が上回る。基本のファイトマネーだけでは、選手の収入は語れない。
私の場合は、販売したチケットの枚数だけでなく、どの価格帯の席をどれだけ売れたかも収入に関わった。応援に来てくれる人を増やすことは、会場の声援だけでなく、選手の収入にもつながっていた。
しかも、この明細を取った時期は収容人数の制限でチケット単価がコロナ前より上がっていた。**高いキックバック額が、そのまま多くの枚数を売れたことを意味するわけではない。**反対に、チケットを買ってくれる人が減っても、単価が上がれば金額の落ち込み方は変わる。3件の差は、枚数と価格の両方を踏まえて読む必要がある。
ただし、この明細だけからチケット1枚ごとの還元率、販売ノルマ、売れ残りを誰が負担したかはわからない。そこを一般的な制度として書くには別の資料が必要だ。
平日夕方の前座は、会社員の知人にチケットを売りにくい
私が経験した興行には、平日の17時30分開場、18時開始という日程が多かった。タイトルマッチを中心とする土日祝の興行もあるが、C級の4回戦は前半に組まれることが多い。自分の試合が18時台なら、会社員の友人や同僚には仕事を早く切り上げてもらわないと間に合わない。早退して応援に来てくれる人もいたが、全員がそうできるわけではない。会社員として戦っていた私には、試合の開始時刻そのものがチケット販売の壁だった。
4回戦で4勝してB級に上がり、6回戦が興行の中盤以降に組まれれば、仕事を終えてから観戦しやすくなる。ただし、B級への昇格だけで試合順やチケットの売れ行きが決まるわけではない。ファイトマネーやキックバックを考えるときには、額面と同時に、誰に売るのか、その人が試合開始に間に合うのかも見ておきたい。
収入小計と差引残の違い
明細Cを見ると、ファイトマネー欄の6万7,000円とキックバック14万4,000円を合わせた収入小計は21万1,000円。明細に記された費用を引いた差引残は18万7,300円だった。
明細には保険料、バンデージ・絆創膏、月謝未納分などの欄がある。何が差し引かれるかは試合や支払い状況によって異なる。とくに、「ファイトマネー」「チケットのキックバック」「費用差引後」のどの数字を指すかで、「1試合いくら稼いだ」の意味は変わってしまう。
明細にある差引残だけでは、生活を賄えるか判断できない。試合の準備期間も含めて収支を考える必要がある。
試合ごとの報酬から年間の生活を考える
私の明細にある金額は、選手の収入として特別に多いとも少ないとも感じない。ただ、これを一つの目安として年間の生活を考えると、ボクシング一本で生計を立てる難しさが見えてくる。3試合の差引残は平均すると1試合11万9,900円。仮に同じ額で年間2試合なら23万9,800円、4試合でも47万9,600円だ。実際の年間試合数や収入ではなく、コロナ禍の3件を使った単純計算である。最後の2試合で受けた制作費へのスポンサー支援も含めていない。
「日本王者や東洋太平洋王者になれば、ボクシングだけで生活できるのでは」と思うかもしれない。しかし、私の知る範囲では、そのクラスでも別の仕事を続ける選手が多かった。これは私の周囲で見聞きした実感であり、全選手を調べた統計ではない。
仮に、ある王者の選手に入る額が1試合150万円だったとしよう。年間2試合なら300万円、年間4試合できても600万円になる。これは具体的な王者の報酬や平均試合数ではなく、試合数を変えた計算例だ。さらに、そこから試合準備にかかる支出を考える必要がある。試合の契約が毎回決まる保証もない。
| 仮の選手収入 | 年間試合数 | 年間の合計額 |
|---|---|---|
| 1試合150万円 | 2試合 | 300万円 |
| 1試合150万円 | 4試合 | 600万円 |
世界王者クラスは収入の条件が大きく異なる場合もある。一方で、王座を失った後は試合の条件が変わり、ファンやスポンサーからの支援が減る可能性もある。1試合で大きな額を得られることと、毎年安定して暮らせることは別だ。
会社員として戦った私と、最後の2試合のスポンサー

私は会社員として働きながら試合に出ており、年間契約のスポンサーは募っていなかった。激励賞や後援会からの支援も受けていない。表にあるのは、ジムの明細に記されたファイトマネー、チケットのキックバック、費用差引後の金額だ。
ただし、現役最後の2試合では、トランクスとガウンの制作費を補うためにSNSでスポンサーを募った。協力してくれた方のワッペンを付けてリングに上がった。この2試合は、この記事で紹介した明細3件の中に含まれる。
スポンサーからの支援は私個人で受け、金額も高額には設定しなかった。ジムの明細には載っていないため、表の差引残にスポンサーからの支援は含まれていない。明細の金額だけを私の全収入として扱えない理由の一つだ。
これからプロを目指す人が確認したいこと
プロテストに合格した後の収入を考えるなら、「C級はいくら」という額面だけでは足りない。ジムに所属するとき、少なくとも次の点は具体的に確かめておきたい。
- ファイトマネーの基本額と、選手が受け取るまでの控除
- 基本額が現金で支払われるのか、チケットで渡されるのか
- チケットを販売した際の還元条件と精算方法
- 試合ごとに差し引かれる費用の内容
- チケットの売れ残りや立て替えが生じる場合の扱い
まとめ:ファイトマネーは4つの数字に分けて見る
プロボクサーの報酬を知りたいときは、基本額、ジムとの分配後の額、チケット収入を加えた額、明細上の差引残を分けて見てほしい。1試合の金額だけで生活を判断せず、年間に何試合できるか、準備に何がかかるかまで考える。私の明細から伝えられるのは、この見方だ。


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