増田陸vs堤聖也の再戦展望|勝敗を分ける距離と主導権

増田陸vs堤聖也の再戦展望|勝敗を分ける距離と主導権

2026年11月29日、東京・両国国技館でWBA世界バンタム級王者の増田陸が、元王者で同級1位の堤聖也を迎えて初防衛戦に臨む。両者が対戦するのは、堤が判定勝ちした2023年8月の日本タイトルマッチ以来、約3年3カ月ぶりだ。

私は前回の堤戦に加え、増田のドネア戦と比嘉大吾戦を見直した。前回は堤が距離を詰めて手数を出し、後半にポイントを重ねた。一方、その後の増田は、ドネア戦ではバックステップから右リードを返し、比嘉戦では自ら前へ出て圧力をかける場面も見せた。再戦で増田が前回と同じように下がるとは限らない。どちらが先に自分の距離を作るかを軸に、勝敗を考えたい。

この記事は、元プロボクサーとして映像を見た私の技術分析と試合予想だ。選手の意図や今のコンディションについて、映像だけで分からない部分は推測として書く。

目次

前回の日本タイトルマッチはどう決着したか

2023年8月30日、当時の日本バンタム級王者・堤に、プロ4戦目の増田が挑戦した。堤はサウスポーでスタート。5回終了時の公開採点は増田支持が2人、堤支持が1人と割れたが、堤が後半に追い上げ、最終的には96-94が2者、97-93が1者の3-0で勝利した。堤は4回にパンチで右目上をカットしながら戦い抜いた。

増田は右ジャブと左ストレートを軸に、長い距離で試合を組み立てようとしていた。堤は頭を動かしてリードを外し、踏み込んだところからフックや連打につなげる。私が前回の映像で気になったのは、増田の右リードを出した後の右手の位置だ。右が低くなる場面があり、堤がそこへ左をかぶせるように打ってから、さらに手数を出していたように見えた。

9、10回には両者が足を止めて打ち合う場面も増えた。私には、体が接するほどの距離でも堤のほうがパンチを出し続け、押し込む場面が多いように映った。増田が左を当てる場面はあったものの、堤に懐へ入られた後、自分の長いパンチが生きる距離を取り直せない時間があった。

ドネア戦と比嘉戦で見えた、増田の二つの距離の作り方

増田は2026年3月にノニト・ドネアを8回TKOで下し、7月には比嘉大吾との王座決定戦に判定勝ちして世界王座を獲得した。

ドネア戦:バックステップして終わらず、右リードを返す

ドネア戦の増田は、ドネアが前に出ると、パンチが届くか届かないかの位置まで下がり、すぐに右リードを返していた。ただ距離を取るためのバックステップではない。下がった後にも自分のパンチが届く位置を選び、ドネアに続けて踏み込ませない足運びが印象的だった。

前回の堤戦と比べると、右リードを出す手の位置も高い。堤戦で気になった右ガードの低さを、現在の増田にそのまま当てはめることはできない。ただしドネアはオーソドックス、堤は左右に構えを変える選手だ。同じように右手を高く保ち、堤の圧力に対応できるかは再戦で確かめたい。

増田自身も、比嘉戦後のインタビューで、右ジャブを使って相手を自分の距離へ入れず、入られたら距離を作り直すことを意識したと説明している。

ドネア戦:ボディへの左から顔面への左へ

ドネア戦ではボディへのストレートも目についた。増田が下へ左を当てることで、ドネアに上下の両方を意識させ、その後の顔面への左ストレートにつながっているように私は見た。相手の意識を下へ向けるために意図していたかは分からない。ただ、顔面だけを狙うよりも、堤にとって対応すべきパンチが増えている。

帝拳ボクシングの投稿では、ドネアを仕留めた増田の左が紹介されている。試合を通して私が見た上下の組み立てとあわせて、最後に左がどう届いたかを見てほしい。

比嘉戦:待つだけでなく、自分から前へ出る

比嘉戦の増田は、ドネア戦と同じように長い距離を保つ場面だけが目立ったわけではない。私には、自分から前へ出て圧力をかけ、比嘉を下がらせる時間があったことが印象に残った。比嘉が踏み込んでくる場面では、増田は大きく動き回らず、どっしりと構えて左ストレートを合わせる。必要以上に動かず、右リードと左を使うシンプルな組み立てに見えた。

試合全体で比嘉が後退していた、という意味ではない。比嘉が前へ出る時間もあり、増田がその圧力を受ける場面もあった。ただ、増田が相手の前進を待って対処するだけでなく、自分から位置を取りに行けることが、前回の堤戦を見たときの印象との大きな違いだ。

ドネア戦では「下がってすぐ打ち返す」、比嘉戦では「先に前へ出て、相手が入るところへ左を合わせる」。私には、増田が状況に応じて二つの方法で距離を作っているように映った。もちろん、堤に同じことができると決まったわけではない。だが、増田を2023年の試合だけで評価するのは適切ではない。

リゴンドーを思わせる構えと、増田自身の選択

増田の構えやパンチを出すときのたたずまいを見て、私はギジェルモ・リゴンドーを思い出した。後に増田本人のインタビューを読むと、同じサウスポーのリゴンドーが好きで、参考にしていたという。

もっとも、両者の戦い方が同じという意味ではない。再戦では増田が足を使って堤を迎え撃つのか、自ら前に出て堤の入り際を狙うのか。その選択まで見たい。

堤はドネア戦以来、約11カ月ぶりの実戦へ

堤は2025年12月にドネアを2-1の判定で破ったが、この試合で鼻骨を骨折し、試合後に治療を受けた。

WBAは2026年5月、医療上の事情から堤を休養王者とした。堤は2025年にも休養王者に認定され、その後、正規王者としてドネア戦を戦っているため、今回が2度目の認定となる。11月29日はドネア戦以来、約11カ月ぶりの試合だ。

堤本人は10月の会見で、前戦のけがで長く休んだと説明し、11月29日に向けて準備を進めていると話した。

堤の強みは、距離を詰める前から始まる手数

堤は接近戦でよく手が出る。しかし、その手数を強いパンチの連発とだけ捉えると、攻めの細かさを見落とす。前回の増田戦では、重心を低くしてリードをくぐるように入り、入り際にもジャブやフックを出していた。増田に先にパンチを返させず、少しでも届けばさらに連打へつなげていく。

対峙しているときも、小さく手を動かし、パンチを出す気配を見せる。私には、当てにいくパンチと、相手の反応を見るための動きを織り交ぜているように見えた。これが増田の右リードや左ストレートを出すタイミングを乱せば、堤は再び接近戦を増やせる。

堤はオーソドックスとサウスポーを使い分けられる。前回はサウスポーで始めたが、今回も同じ構えで戦い続けるとは限らない。ある構えで増田の距離を崩せなければ、途中で切り替える選択もある。ただ、増田自身も下がる場面と前に出る場面を使い分けている。堤だけが試合中に変化をつけられるわけではない。

堤の近年の攻防では、2025年の比嘉大吾戦9回も印象に残る。比嘉の左フックで堤がダウンし、その後、堤の右ストレートで比嘉もダウンした。Prime Video Sportが公開したその場面を以下に置く。

構えと位置取りで、左ストレートの軌道はどう変わるか

構えで変わるパンチの起動
※上から見た位置関係の模式図。矢印は、図のように向き合った場合に左ストレートが通るラインの一例を示す。選手のフォームそのものの違いを示す図ではない。

前回の堤戦では、増田も堤もサウスポーに構える時間があった。一方、ドネアはオーソドックスだ。私が見比べると、堤戦の増田の左ストレートはやや斜めに打っているように見え、ドネア戦では相手の正面へ直線的に伸びているように見えた。ただ、増田が打ち方を大きく変えた印象はない。

サウスポー同士では互いの前手が向き合い、右ジャブで相手の正面を取り合う。その位置から後ろ手の左を出すと、相手の前手や頭の位置との関係で、左の通るラインが斜め気味になることがある。堤戦で増田の左がそう見えたのは、この位置関係が一因ではないかと私は考えている。

対して、オーソドックスのドネアと向き合うと、堤戦とは前手と頭の位置関係が異なる。増田の左を出すライン上にドネアの正面が来る場面では、同じように左を打っても、パンチがまっすぐ通るように見える。ドネア戦での印象は、増田のフォームの変化というより、互いの立ち位置によるものではないかと私は考えている。

構えだけで軌道が決まるわけではない。両者の足が動けば、同じ構え同士でも左をまっすぐ通せる。再戦では、堤がサウスポーに構えるのかオーソドックスに構えるのか、そして増田がどの位置から左を通そうとするのかを見たい。

再戦で注目したい5つの場面

1.堤が踏み込んだ直後

増田がドネア戦のように、ぎりぎりで下がって右リードを返せれば、堤は一度の踏み込みで接近戦へ持ち込みにくい。反対に、堤が小さなパンチで増田の反応を引き出し、右リードの戻り際に中へ入れば、前回のように連打を出す時間が増える。

2.増田が先に前へ出たとき

比嘉戦のように増田が自分から前進すれば、堤が一方的に距離を詰める展開にはならない。増田が右リードで先手を取り、堤が入ろうとする瞬間に左を合わせられるかが焦点だ。一方で、増田の前進に堤が合わせて低く潜り込み、近い距離で連打を始めれば、増田が望む形にはならない。先に前に出た選手が必ず主導権を握るわけではない。

3.距離が詰まった後の手数

前回、体が接するほど近い距離では堤の手数と押し込みが目立った。今回も同じ距離の攻防が長く続けば、堤の強みが生きる可能性がある。ただし、増田も比嘉と12回戦った経験を経ている。前回と同じように押されるとは限らない。手数の印象だけではなく、互いの有効打と、打ち合った後にどちらが次の位置を取るかを見たい。

4.鼻への被弾後も、堤は前進を続けられるか

増田の右ジャブや左ストレートが顔面に届いたとき、堤が頭を動かして入り直し、手数を出せるかを見たい。前回の増田戦では右目上をカットしても戦い抜いた。ただ、今回の鼻の状態は分からない。被弾後の動きや出血の有無、その後の攻防を見たい。

5.約11カ月ぶりの試合で、堤は距離とタイミングをつかめるか

堤には、今回より長く試合から離れた経験がある。2020年10月26日の比嘉大吾戦から、2022年6月23日の澤田京介戦までは605日間、約1年8カ月の間隔が空いた。所属ジムの戦歴には、途中の2021年3月24日に予定されたデカナルド闘凜生戦が「棄権・中止」と記載されている。堤は次に実現した澤田戦で8回TKO勝ちを収め、日本バンタム級王座を獲得した。

今回は605日間のブランクより短いが、澤田戦での勝利だけで現在の試合勘は判断できない。増田の右リードに合わせる距離や、打ち返すタイミングを序盤からつかめるか。堤が踏み込んで連打につなげ、増田の左が飛んでくる前に位置を変えられるかを見たい。

予想は前回の試合だけを根拠に決められない

前回の映像だけを見た段階では、私は堤に分があると考えていた。左右の構えを使い分けながら低く踏み込み、近い距離で手数を維持できるからだ。しかし、ドネア戦に加えて比嘉戦も見た今は、明確な有利不利を決められない。増田の変化と堤の復帰戦という条件を、両方考える必要がある。

3年前の増田をそのまま今回のリングに当てはめることはできない。ドネア戦では高い右ガードと、下がってすぐ返す右リードがあった。比嘉戦では、相手を下がらせる前進や、構えて相手の入り際に左を合わせる動きも見えた。増田が先手を取り、堤に思うような踏み込みをさせなければ、前回とは異なる展開になる可能性がある。

堤が増田の右をくぐって接近戦を増やせば、前回の勝ち筋につながる。一方、増田には右で止めるだけでなく、自ら前へ出て左を当てる勝ち筋も見える。増田が引いても押しても堤の入り方を制限できるか。これが現時点で私の考える最大の焦点だ。勝者や具体的な採点を断定するには、まだ材料が足りない。

試合日程・配信

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項目内容
試合WBA世界バンタム級タイトルマッチ12回戦・増田陸vs堤聖也
日程2026年11月29日(日)
会場東京・両国国技館
興行U-NEXT BOXING.7
第1試合開始予定17:00
U-NEXTライブ配信開始予定17:00
メイン開始時刻現時点で未発表
配信U-NEXTを確認【PR】

第1試合開始は帝拳プロモーション「最新情報」10月20日付の大会案内、配信開始はU-NEXTの公式案内に、それぞれ17時予定と記されている(10月22日確認)。同じ興行では寺地拳四朗のWBO世界スーパーフライ級戦と、ユーリ阿久井政悟のWBA世界スーパーフライ級戦も予定されている。時刻やカードは変更される場合があるため、視聴前に公式案内を確認してほしい。

まとめ

前回は堤が増田の距離へ入り、接近戦の手数で後半を取った。だが、ドネア戦の増田はバックステップから即座にリードを返し、比嘉戦では自分から前へ出る場面も見せた。堤にも、構えを切り替え、小さなパンチで反応を引き出してから踏み込む技術がある。

増田が距離を守る展開になるのか、自ら前へ出るのか。その選択に堤がどう対応するかを見たい。前回とは違う二人が向かい合う11月29日、最初の一歩から目が離せない。

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この記事を書いた人

元A級プロボクサー。26歳のとき、会社員として働きながらダイエットを目的にボクシングを始め、28歳でプロライセンスを取得。29歳でデビューし、37歳を目前に引退した。プロ通算戦績は15戦5勝8敗2分。

本業では、企業オウンドメディアのYouTubeスポーツ番組でディレクターを務める。RING LIVERARYでは、自身のリング経験とコンテンツ制作の知見をもとに、主に後楽園ホールで行われる国内興行の試合結果・戦評や注目選手の解説を発信。結果だけでなく、勝敗を分けたポイントや技術的な見どころまで、元プロの視点から掘り下げています。

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