【パイオニアオブファイト.12&大和魂21 結果】元A級プロが見た6試合の分岐点

2026.8.29 パイオニアオブファイト.12&大和魂21 結果

2026年8月29日、後楽園ホールで「パイオニアオブファイト.12&大和魂21」が開催された。

メインイベントのフライ級8回戦は、岡朱里が瀬筒陸斗に3-0の判定勝ち。セミファイナルでは、池崎創哉が日本ランカーのそれいけ太一から2度のダウンを奪い、4回KO勝ちを収めた。

注目していた田之岡条vs齋藤哲平は、私には前半は田之岡、4回以降は齋藤が流れを握ったように映った。試合は齋藤が3-0の判定で勝利している。

本記事では、実施された全6試合の結果を確認したうえで、各試合から一つずつ「個人的に印象に残った技術的なポイント」を取り上げる。

山下翼がボディーへの攻撃を距離の確認に使ったと考えられる場面、菅谷翔太がダメージを与えたあとに顔だけでなくボディーへ散らした攻め、田之岡条の戦い方が前半と後半で変化した理由など、試合結果だけでは伝わりにくい攻防を元A級プロの視点で考えたい。

※以下は今回の試合を見た個人的な分析です。一つの試合だけで選手の能力全体を評価するものではなく、技術的な見方や採点は観戦者によって異なる場合があります。

目次

パイオニアオブファイト.12&大和魂21の試合結果一覧

契約・試合対戦カード結果個人的に注目したポイント
フライ級8回戦岡朱里 vs 瀬筒陸斗岡が3-0判定勝ち(78-74、78-74、79-73)上下と角度を変えた岡のコンビネーション
58.0kg契約8回戦それいけ太一 vs 池崎創哉池崎が4回2分37秒KO勝ち前方へ伸びる左フックとサウスポーの距離管理
スーパーバンタム級8回戦田之岡条 vs 齋藤哲平齋藤が3-0判定勝ち(78-74、78-74、79-73)田之岡が受けに回った後半と齋藤の圧力
スーパーバンタム級6回戦菅谷翔太 vs 上垣量資菅谷が1回2分50秒TKO勝ち右で効かせたあと、ボディーへ攻撃を散らした菅谷
56.5kg契約6回戦泉山栄人 vs 小稲直史小稲が6回52秒TKO勝ち低い姿勢で懐へ入り、回転力を維持した小稲
フェザー級6回戦平野和憲 vs 山下翼山下が2回1分52秒TKO勝ちボディーから上のオーバーハンドへつないだ組み立て
フェザー級4回戦野中太陽 vs 渡邉響太野中の棄権により中止―

岡朱里vs瀬筒陸斗|岡が3-0判定勝ち

フライ級8回戦

岡朱里 vs 瀬筒陸斗
結果:岡朱里が3-0判定勝ち(78-74、78-74、79-73)

サウスポーの瀬筒とオーソドックスの岡は、互いに上体を揺らしながら距離を測る慎重な立ち上がりとなった。

岡が軽く放ったワンツーが瀬筒のガードに触れると、そこから細かいパンチを当て始める。ストレート、アッパー、フックと角度を変え、矢継ぎ早に攻撃を組み立てた。私は岡が1回を取ったと採点した。

2回以降もパンチが交錯する場面はあったが、岡は慌てずに対処し、細かいパンチを重ねる。3回には近い距離での打ち合いから右オーバーハンドを当て、瀬筒へプレッシャーを与えた。瀬筒も単発でヒットさせたものの、攻撃全体では岡の多彩さがより強く印象に残った。

4回以降は、岡がコンビネーションで主導権を握ったと私は見た。顔面だけでなくボディーも織り交ぜ、再び顔へパンチを集める。瀬筒も反撃したが、岡はガードで対処し、打ち終わりを狙って流れを渡さなかった。

元プロとして注目したポイント|細かいパンチでガードの隙間を作る

この試合で印象に残ったのは、私は、岡が細かく多彩なパンチを使い、瀬筒のガードに隙間を作っていたと見ている。上下、左右へ攻撃を散らし、空いたところへ次のパンチを通していた。

瀬筒もコンビネーションを返していたが、顔の正面へパンチが集まる場面が多かった。それに対して岡は、顔面、ボディー、ストレート、アッパーと狙いを散らしている。どちらも手を出していた中で、この角度と攻撃箇所の違いが採点差につながったと私は考えている。

それいけ太一vs池崎創哉|池崎が4回KO勝ち

58.0kg契約8回戦

それいけ太一 vs 池崎創哉
結果:池崎創哉が4回2分37秒KO勝ち

サウスポーの池崎が積極的に右ジャブを出し、オーソドックスの太一が距離とタイミングを測る立ち上がりとなった。

池崎は早い段階でジャブやワンツーを当て、先に自分の距離をつかんだ。上体も柔らかく、太一のパンチをスウェーやバックステップで外す。太一のパンチが届いてもガードの上が多く、池崎は慌てずに対処していた。

2回も池崎がジャブ、ワンツーを先に当てる場面が目立った。3回は太一が積極的に仕掛けて会場を沸かせたが、ヒットの多くは池崎のガードの上だった。私は、観客の反応ほど有効打に差はついていないと見た。

4回、池崎が踏み込みながらパンチをつなぎ、最初のダウンを奪う。再開後に池崎がラッシュをかけると、太一は「来い」とジェスチャーを見せ、打ち合いに応じた。太一のタフさと意地を感じた場面だった。

最後は、太一が踏み込んだところへ池崎がカウンターを合わせ、2度目のダウン。コーナーからタオルが投入され、4回KOで試合が終わった。

元プロとして注目したポイント|前方へ伸ばす左フック

池崎の長い左フックは、腕の角度を少し開き、前方へ伸ばす軌道を描いていた。一般的な横から回すフックとは見え方が異なり、前半から何度かヒットしていた。私は、太一にとって出どころや届く距離を判断しにくいパンチだったと考えている。

太一はインタビューでサウスポーを苦手としていると話していた。今回も序盤は距離が合うまでに時間がかかり、池崎が先に自分の距離を作った。太一は3回以降に圧力を強めたが、前へ出れば池崎のカウンターを受ける危険も高まる。最終局面には、その難しさが表れていた。

田之岡条vs齋藤哲平|齋藤が3-0判定勝ち

スーパーバンタム級8回戦

田之岡条 vs 齋藤哲平
結果:齋藤哲平が3-0判定勝ち(78-74、78-74、79-73)

サウスポーの田之岡が距離を取り、オーソドックスの齋藤がガードを固めて前へ出る構図で始まった。

序盤は田之岡が主導権を握ったと私は見た。下がりながら右ジャブで距離を測り、ノーモーション気味の左ストレートを齋藤のガードの隙間へ通す。齋藤も距離を詰めた場面ではパンチを返したが、1回は田之岡が自分の距離で戦っていた。

2回は田之岡の左ストレートが何度もヒットし、コンビネーションで齋藤を後退させる場面もあった。ロープ際ではロープのたわみを使い、左を当てながら横へ逃げる。下がるだけでなく、パンチを当てたあとにボディージャブを加え、自分から次の攻撃を組み立てていた点も印象に残った。

3回も田之岡が右ジャブにロングフックを織り交ぜ、一定の距離を保ちながら左ストレート、コンビネーションへつなぐ。齋藤の右がクリーンヒットする場面はあったものの、私は田之岡のラウンドと採点した。

元プロとして注目したポイント|後半に増した齋藤の圧力

私は、4回を境に試合の流れが変わったと見ている。

田之岡が引き続きテクニックを見せる一方、齋藤はさらに距離を詰め、力強いパンチを振るう。単発でも強く印象に残るパンチやボディーストレートが入り、私はこの回から齋藤が流れを引き寄せたと見た。

5回、田之岡はロープ際で大きなクリーンヒットを避けていたものの、ディフェンスに回る時間が長くなる。齋藤は田之岡のリードに当たる場面を減らし、少しずつ自分のパンチを当てるようになった。

6回は齋藤がさらに手数を増やし、田之岡のリードをかいくぐってコンビネーションを当てる。田之岡も入り際へ左ストレートを合わせたが、リードは前半ほど機能しなくなった。下がってロープへ詰められる場面も増え、決定的な被弾は避けていても、齋藤の攻勢がジャッジへ強く映りやすい展開だったと私は見た。

7回以降、田之岡は自分から仕掛けるよりも、入ってくる齋藤へ反応して打ち返す形が増えた。後退しながら放つ左はヒットしても齋藤の前進を止めるまでには至らず、打ち終わりにパンチを受ける場面も増えていった。

最終8回も齋藤が追い続け、パンチを当てていく。田之岡も返したが、齋藤は最後まで前進を続けた。

田之岡vs齋藤のラウンド図

私は、田之岡が自分から距離と攻撃を作る状態から、入ってくる齋藤へ反応する状態へ変わったと見ている。

田之岡は最後まで左を返し続けていた。ただ、前半に機能していた右ジャブと左ストレートへ齋藤が対応し、被弾を受け入れながらも前進を継続したことで、田之岡が先に動かされる場面が増えたと私は見ている。その変化が4回以降の採点にも表れたと考えている。

個人採点は75-77で齋藤。79-73は差が大きく感じた

私の採点は、1~3回を田之岡、4~8回を齋藤として、田之岡75-77齋藤だった。

公式採点は78-74が2者、79-73が1者。勝者は齋藤で異論はないが、少なくとも前半は田之岡が明確に取ったと見たラウンドが複数あったため、7ラウンドを齋藤に与えた79-73は個人的には差が大きいと感じた。

ただし、リングサイドでは齋藤の圧力や強いパンチが、映像で見る以上に評価された可能性もある。採点だけを見て誤審と断定することはできない。

この試合では、前半と後半で同じ選手のボクシングが大きく変わった。8回戦では、序盤に距離を支配しても、相手が対応を変えながら圧力を強めてくる。そこで再び距離を作り直せるかが、4回戦や6回戦以上に問われる。

関連記事:ボクシングの4回戦・6回戦・8回戦は何が違う?

菅谷翔太vs上垣量資|菅谷が1回TKO勝ち

スーパーバンタム級6回戦

菅谷翔太 vs 上垣量資
結果:菅谷翔太が1回2分50秒TKO勝ち

互いにオーソドックス。上体を揺らしながら軽快にジャブを突き、序盤は上垣がやや手数で上回った。

私は、菅谷が上垣のジャブをパーリングし、リターンのジャブをクリーンヒットさせた場面が流れの分岐点だったと見ている。このリターンジャブが距離とタイミングを合わせるきっかけになったと考えている。その直後、菅谷は右ショートを当てた。上垣は尻もちをつきそうになりながら、何とか踏みとどまった。

菅谷は一気に追いかけたが、顔だけを狙わず、途中からボディーへパンチを集めた。上垣も下がりながら反撃したものの、ガードを固めて前へ出る菅谷の圧力が強く、再び右ショートが入った。

さらに菅谷の左ボディーが入り、そのあとに左フックがクリーンヒット。上垣がぐらつくと、菅谷は連打をまとめ、最後は右でダウンを奪った。カウントの途中でレフェリーが試合を止めた。

元プロとして注目したポイント|効かせたあとに顔だけを狙わなかった

右ショートでダメージを与えたあとも、菅谷は顔だけを追わずにボディーへ攻撃を散らした。私は、冷静に上下を打ち分けたことが、最後の左フックとフィニッシュにつながったと見ている。

泉山栄人vs小稲直史|小稲が6回TKO勝ち

56.5kg契約6回戦

泉山栄人 vs 小稲直史
結果:小稲直史が6回52秒TKO勝ち

身長とリーチでは泉山が上回っていたが、序盤から積極的に手を出したのは小稲だった。

泉山もジャブを返したが、小稲は頭を動かして外す。右手を顔の前へ置き、ジャブを出しながらステップインして、長身の泉山の懐へ入っていった。

泉山は3回、自分からジャブを突きながら積極的に仕掛けた。一方、距離が詰まった場面では、回転力のある小稲の攻撃がより強く印象に残った。

4回以降、小稲は圧力と手数をさらに強めた。頭を振りながら低い姿勢で入り、泉山の懐で回転力のあるパンチを出し続ける。大きなパンチを振りながら、終盤まで手数を維持していた。

泉山には少し疲れが見え、ダメージも蓄積しているように感じられた。6回、小稲が連打を浴びせ、ジャブも続けて当てたところでレフェリーが試合を止めた。

元プロとして注目したポイント|低い姿勢で入り、手を止めなかった

小稲は頭を振りながら低い姿勢で入り、自分の距離に入ったあとも回転力を落とさなかった。私は、大きなパンチを振りながら6回まで手数を維持したスタミナが、この戦い方を支えたと見ている。

泉山も3回には自分からジャブを突き、攻勢に出た。ただ、距離が詰まると小稲の回転力が生きるため、泉山が身長とリーチを使える長距離から中間距離の時間をどれだけ保てるかが、勝負の一つのポイントだったと考えている。

平野和憲vs山下翼|山下が2回TKO勝ち

フェザー級6回戦

平野和憲 vs 山下翼
結果:山下翼が2回1分52秒TKO勝ち

互いにオーソドックス。山下は序盤からワンツーやオーバーハンドを当て、早い段階で自分の距離をつかんだ。

山下は上体が柔らかく、フットワークも軽快だった。平野が距離感をつかむ前に、自分のパンチが届く位置を先に見つけた。

2回にダウンを奪ったオーバーハンドは、1回にも平野のジャブの打ち終わりへ当たっていた。1回にも同じ軌道が通っていたことから、2回も狙っていたのではないかと思う。

元プロとして注目したポイント|ボディーで測り、下から上へつなぐ

フィニッシュでは、山下が一瞬上体を沈め、そこから上へオーバーハンドを打ち込んだ。1回から見せていたボディーストレートやボディージャブが、このパンチの伏線になったのではないかと思う。

私は、山下が早い段階で距離をつかめた理由の一つが、ボディーへの攻撃だったと考えている。顔や前手へのジャブは相手も反応しやすく、触れるのが難しい。一方、ボディーは比較的触れやすいため、山下にとってパンチが届く位置を確認する手段になったと見ている。

私は、山下がボディーで距離を測り、下への意識を作ってから上のオーバーハンドへつなげたと見ている。距離感と、前の攻撃を次のパンチへつなげる組み立てが印象に残るTKO勝ちだった。

パイオニアオブファイト.12&大和魂21を振り返って

全6試合のうち4試合がKO・TKO決着となったが、単純な打ち合いだけで終わった興行ではなかった。私が各試合に共通して感じたのは、距離の作り方と、相手に対応されたあとの変化だった。

山下はボディーへのジャブやストレートで距離を測り、最後は上のオーバーハンドへつないだと私は見ている。菅谷は右ショートで効かせたあとにボディーへ攻撃を散らした。この上下の打ち分けが、最後の左フックとフィニッシュにつながったと考えている。

小稲は長身の泉山に対し、頭を動かしながら自分の距離へ入り続けた。岡は上下と角度を変える細かいパンチで瀬筒のガードに隙間を作り、池崎はサウスポーの距離を最後まで太一につかませなかった。

最も展開の変化が大きかったのは、田之岡vs齋藤だった。前半は田之岡が距離を支配した一方、齋藤はラウンドを重ねながらリードをかいくぐり、後半は圧力で流れを引き寄せたと私は見ている。

ここで取り上げたポイントは、敗れた選手の欠点を並べるためのものではない。田之岡が前半に距離を支配したからこそ、齋藤が後半に見せた対応が際立った。泉山に身長とリーチがあるからこそ、頭を動かしながら懐へ入り続けた小稲の技術にも価値がある。

ボクシングでは、一方の長所に対して、もう一方がどのような答えを出したかを見ると、結果だけでは分からない攻防が見えてくる。

この興行では、自分のパンチが当たる距離をどう作り、その距離を相手に崩されたあとにどう修正するかが、多くの試合で勝敗を分けたと私は考えている。

試合映像で攻防を確認する

田之岡vs齋藤の前半と後半の変化や、山下のボディーからオーバーハンドへつなぐ攻防は、実際の映像と合わせて見ると分かりやすい。

本興行の配信状況は、ボクシング専門配信サービス「BOXING RAISE」の公式サイトで確認できる。

BOXING RAISEで配信状況を確認する

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この記事を書いた人

元A級プロボクサー。26歳のとき、会社員として働きながらダイエットを目的にボクシングを始め、28歳でプロライセンスを取得。29歳でデビューし、37歳を目前に引退した。プロ通算戦績は15戦5勝8敗2分。

本業では、企業オウンドメディアのYouTubeスポーツ番組でディレクターを務める。RING LIVERARYでは、自身のリング経験とコンテンツ制作の知見をもとに、主に後楽園ホールで行われる国内興行の試合結果・戦評や注目選手の解説を発信。結果だけでなく、勝敗を分けたポイントや技術的な見どころまで、元プロの視点から掘り下げています。

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