2026年8月5日に後楽園ホールで開催された「第53弾 ザ・グレイテストボクシング」。
メインイベントでは40代の宇津見義広(ワタナベ)が久保龍助(ワールドスポーツ)との接戦を判定で制し、セミファイナルでは早坂峻(横浜光)が阿部大翼(青木)にフルマーク勝ち。東日本新人王トーナメントでは鈴木晴人(大翔)が4戦4KOを継続しました。
今回は、全8試合の結果とともに元A級ボクサーの視点から、結果の裏にある「勝敗の分岐点」や「次が見たくなった選手」を深掘りして解説します。
ザ・グレイテストボクシング53 全8試合結果一覧
| 試合 | 対戦カード | 勝者 / 結果 | 階級・ラウンド |
|---|---|---|---|
| 第8試合 | 宇津見 義広 vs 久保 龍助 | 宇津見(判定2-0) | バンタム級 8R |
| 第7試合 | 阿部 大翼 vs 早坂 峻 | 早坂(判定3-0) | 48.5kg契約 8R |
| 第6試合 | リー・トンザイ vs 福本 永遠 | 福本(判定3-0) | Sウェルター級 6R |
| 第5試合 | 山本 勇貴 vs 三原 陽太 | 山本(2R TKO) | Sフライ級 4R |
| 第4試合 | 田中 千尋 vs 森岡 力 | 引き分け(判定1-0) | 54.0kg契約 4R |
| 第3試合 | 岡本 陽和太 vs テイ・ウンリュウ | 引き分け(判定1-0) | Sフェザー級 4R |
| 第2試合 | 横山 達也 vs 鈴木 晴人 | 鈴木(4R TKO) | Sフェザー級 4R |
| 第1試合 | 松本 謙信 vs 水尻 一気 | 松本(4R TKO) | フェザー級 4R |
40代の宇津見義広が接戦制す 若手相手に見せた“老獪な8回戦”
○宇津見 義広(ワタナベ) vs ●久保 龍助(ワールドスポーツ)
結果:8R 判定2-0(76-76、77-75、78-74)
スコアは76-76、77-75、78-74。数字以上に印象に残ったのは、40代の宇津見が若い久保を相手に「試合の時間」を支配していたことだった。
左手を下げた変則的な構えからフリッカージャブを散らし、要所でスイッチ。久保は前に出続けたものの、宇津見のリズムを最後まで崩し切れなかった。特に光ったのはインサイド(近接戦)での処理だ。
- 右ボディ
- 右アッパー
- クリンチワーク
- 頭の位置を外す動き
🥊 元A級ボクサー目線
パンチのスピードや手数で圧倒したわけではない。相手に「思い切って打たせない」ことでラウンドを積み重ねていく、まさにベテランの8回戦だった。
年齢を重ねた選手ほど「無駄な交換をしない」傾向が強くなる。宇津見も危険な距離での打ち合いを避け、ボディと細かい有効打で削る戦い方を徹底していた。
久保も流血後に前進を続けた点は評価できる。ただ、宇津見に距離を作られるたびに攻撃が単発になり、経験値の差を埋め切れなかった。判定では2-0でしたが私の視点では終始試合をコントロールした宇津見がポイントを全ラウンド取ったように見えた。
若手主体の興行の中で、宇津見が見せた「40代でも勝てるボクシング」は大きな存在感を放っていた。スピードや爆発力ではなく、距離感、タイミング、そして8ラウンドをどう使うか――経験がそのまま武器になることを証明した一戦だった。
早坂峻がランカーの実力差を見せた完勝
●阿部 大翼(青木) vs ○早坂 峻(横浜光)
結果:8R 判定3-0(72-80×3)
80-72×3。内容もほぼフルマークに近い完勝劇。阿部は最後まで前に出続けたが、早坂の「ジャブ」「フットワーク」「打ち終わりのディフェンス」「ボディへの打ち分け」が一枚上だった。
🥊 元A級ボクサー目線
特に印象的だったのは、「打って離れる」を8ラウンド崩さなかったこと。無理に倒しに行かず、自分の距離を徹底したあたりにランカーらしさがあった。相手のプレスに巻き込まれず、自分のボクシングを淡々と遂行し切るタフさは見事の一言。
福本永遠は“6回戦以上”を感じさせる内容
●リー・トンザイ(中国) vs ○福本 永遠(角海老宝石)
結果:6R 判定3-0(60-54×3)
この日のノーランカー勢で、個人的に最も気になったのが福本。ジャブの質が高く、上下の打ち分けもスムーズ。特に右ボディストレートが効果的だった。リーはタフだったが、福本は深追いせずに距離を維持。
🥊 元A級ボクサー目線
6回戦というより、「8回戦を見据えた試合運び」に見えた。単発で倒しに行くのではなく、ジャブで組み立てて相手の体力を削っていく引き出しの多さがある。今後、B級上位やA級の強豪と対戦した際にどこまで通用するか非常に楽しみな存在だ。
山本勇貴、左フック一閃で鮮やかTKO
○山本 勇貴(伴流) vs ●三原 陽太(戸高秀樹)
結果:2R 1分56秒 TKO
序盤は三原の前進もあったが、山本がジャブで距離を支配。カット後の再開から一気にギアを上げ、最後は「ワンツー→左フック」でダウンを奪ってストップした。
🥊 元A級ボクサー目線
リーチを生かした組み立てと、チャンスでの集中力が光った。相手のアクシデント(流血)による中断明け、焦って雑になる選手も多いが、山本は冷静にガードの間隙をぬう完璧なコンビネーションを叩き込んだ。勝負勘の鋭さが際立つ鮮やかなTKOだった。
東日本新人王:鈴木晴人は4戦4KO継続
●横山 達也(ワールドスポーツ) vs ○鈴木 晴人(大翔)
結果:4R 2分49秒 TKO
序盤は鈴木がアウトボクシングで優位。しかし2R以降、横山の圧力に押し込まれ、判定にもつれ込む雰囲気もあった。それでも最後に決めた左アッパーは見事。
🥊 元A級ボクサー目線
4戦4KOという結果はインパクト十分だが、元プロの目線で見ると「強烈なプレスを受けた時のスタミナと手数の減少」が今後の課題に映った。
しかし、苦しい展開の中でも一瞬の隙を逃さずに倒し切る「KOパンチャーの本能」は本物。勝ったこと以上に、上のステージへ向けて明確な課題が得られた点が最大の収穫だろう。
松本謙信がプロ初勝利、水尻一気もデビュー戦で光るものを見せた
○松本 謙信(ハッピーボックス) vs ●水尻 一気(スパイダー根本)
結果:4R 0分46秒 TKO
この日の第1試合は、プロ2戦目の松本謙信とデビュー戦の水尻一気によるフェザー級4回戦。立ち上がりで目を引いたのは水尻のジャブ。デビュー戦とは思えない落ち着きがあり、長いリーチを生かして丁寧に距離を作っていた。特に中間距離での左リードは質が高く、松本が入りづらそうな場面もあった。
ただ、2ラウンド以降に松本が対応を見せる。ガードとヘッドワークでジャブの威力を殺しながら距離を詰め、近い距離でワンツーやフックをまとめる展開へ。経験の差が出たのはこの部分だった。そして4ラウンド開始直後、打ち合いの離れ際に松本の左フックがクリーンヒット。レフェリーが試合を止め、松本がプロ初勝利を手にした。
🥊 元A級ボクサー目線:勝者より“デビュー戦の素材”が気になった
松本は相手の長所を見極め、途中で試合を組み立て直せた点が素晴らしかった。特に「ジャブをもらいながらでも慌てず距離を潰せたこと」は、今後4回戦を勝ち上がるうえで大きな武器になる。
一方で、敗れた水尻にも高い将来性を感じた。
- ジャブの質
- 距離感
- リングでの落ち着き
この3つは、デビュー戦としては十分に評価できる。課題は、ジャブの後の右へのつなぎと、打ち終わりのガード。結果はTKO負けでも、個人的には「次戦を見たい選手」という強い印象が残った。
4回戦で最も将来性を感じたのは“引き分け組”
△田中 千尋(ワールドスポーツ) vs △森岡 力(レイスポーツ)
結果:4R 判定引き分け(39-37、38-38、38-38)
△岡本 陽和太(青木) vs △テイ・ウンリュウ(角海老宝石)
結果:4R 判定引き分け(39-37、38-38、38-38)
どちらも引き分けだったが、将来性という意味ではむしろ面白い。特に森岡のコンビネーションと、岡本の対応力・ゲームメイクは光っていた。
🥊 元A級ボクサー目線
4回戦の段階では「勝ったか負けたか」という結果だけに囚われる必要はない。リング上で見せる「距離感」「相手に応じた修正力」「後半の泥臭い粘り」「スタミナ配分」といった要素に着目すると、将来の伸びしろがはっきりと見えてくる。
この日のベストファイトとベストホープ
- ベストファイト:鈴木晴人 vs 横山達也
- ベストホープ:福本永遠
- ベストテクニック:宇津見義広
- 次戦を見たい選手:水尻一気
まとめ
第53弾ザ・グレイテストボクシングは、ランカーの安定感と、4〜6回戦の伸び盛りの選手たちの魅力が共存した見応えのある興行だった。
特に印象に残ったのは、「結果以上に次が見たくなる選手」が非常に多かったことだ。
- 福本永遠の完成度
- 鈴木晴人の爆発力
- 森岡力のセンス
- 岡本陽和太の修正力
- 水尻一気の素材感
世界戦の派手な速報だけでなく、こうした「ランカーになる前の選手たち」の試行錯誤や成長プロセスを追えることこそが、後楽園ホールに通うボクシング観戦の醍醐味だと改めて実感させてくれた興行だった。
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