2026年8月16日、後楽園ホール。
元IBF世界スーパーバンタム級王者・小國以載が、アレックス・サンティシマJr.と対戦した。
結果は8回TKO負け。
世界再挑戦を目指す小國にとって、厳しい結果となった。
ただ、試合後に改めて映像を見返してみると、一つ引っかかったことがある。
小國のボクシングそのものが、サンティシマに通用しなかった試合だったのだろうか。
もちろん、「腰を痛めていなければ勝っていた」と言うつもりはない。
サンティシマが前に出続け、手数を落とさず、小國の打ち終わりを狙ったことも勝敗に大きく影響したと思う。
それでも、小國らしいジャブや左ボディは最後まで生きていた。
今回は正式な採点や戦評というより、試合を見返して私自身が感じたことを書いてみたい。
1ラウンドから気になった小國のバランス
1ラウンド、小國はガードを固めながら距離を取り、サンティシマの出方をうかがっていた。
リングを広く使いながらジャブを突き、ボディへのジャブから顔へのジャブ、さらにストレートへつなげる。
対するサンティシマは積極的に前へ出る。
それでも中間距離では、小國のジャブが機能しているように見えた。
独特のタイミングで伸びてくる左があることで、サンティシマも簡単には距離を詰められない。
一方、早い段階から気になったのが小國のバランスだった。
パンチを受けたときや打ち終わりに、身体が大きく崩れる場面がある。
映像だけを切り取れば、パンチを効かされてよろけたようにも見える。
しかし試合後、小國は試合中に腰を痛めていたことを明かしている。
しかも、試合中に痛みが出たのは、試合前に痛めていた箇所とは別の場所だったという。
つまり、もともと抱えていた腰の問題がそのまま悪化した、という単純な話ではない。
試合中に別の箇所に痛みが生じていたことになる。
もちろん、映像を見ただけで、どの場面が腰によるバランスの崩れで、どの場面がパンチによるダメージだったのかを完全に切り分けることはできない。
ただ、試合を通して何度も見られた身体の崩れには、腰の状態も少なからず影響していたのではないか。
私はそう感じた。
小國独特のジャブは生きていた
この試合を見返して、改めて面白いと思ったのが小國のジャブだった。
ものすごく速いわけではない。
大きな予備動作があるわけでもない。
それでも当たる。
特に気になったのが、左ジャブを出すときの右手だった。
小國はジャブを出しても、右拳が大きく動かない。
顎付近にガードを残したまま、左だけがスッと出ていく。
相手からすると始動を読みづらく、あの独特のタイミングにつながっているのではないか。
サンティシマが前へ出ようとしても、このジャブを当てられることで一度止まる場面がある。
小國が長年磨いてきた技術そのものは、この試合でも残っていた。
グスマンからダウンを奪った左ボディも健在
もう一つ、機能していたように見えたのが左ボディだ。
小國の左ボディは面白い。
接近戦だけで打つパンチではなく、中間距離からでも届く。
ワンツーで相手のガードを上げ、その下に左ボディを返す。
さらに接近戦でも、短い距離から同じ左を腹へ入れていく。
2016年、ジョナタン・グスマンからダウンを奪ったのも左ボディだった。
今回のサンティシマ戦でも、このパンチは一つの武器になっていたように見えた。
小國がボディを打ったあと、サンティシマが距離を取る場面もある。
ただ、「ボディが効いていた」とまでは言い切れない。
明確に手数を止めるほどのダメージがあったとは、映像からは判断できなかったからだ。
それでも、サンティシマに警戒させるだけのパンチにはなっていたように思う。
腰の影響を感じたのは、パンチより「その前後」
今回の試合で個人的に最も気になったのがここだった。
小國はパンチそのものを出せなくなっていたわけではない。
ジャブも出ている。
ワンツーもある。
左ボディも当たっている。
接近戦でもパンチを返していた。
それでも、パンチを打つ前後の動きが苦しそうに見えた。
打ったあとに身体が流れる。
相手を下げても、そこからもう一度ステップして追いかけられない。
サンティシマに詰められた際も、本来ならバックステップで距離を作りたいところで、十分に離れられない。
パンチをガードした際にも、身体が崩れるように見える場面があった。
ボクシングでは、パンチを打つときだけ下半身を使うわけではない。
踏み込む。
止まる。
打つ。
下がる。
角度を変える。
そして、相手のパンチを受け止める。
その一つひとつで下半身と体幹を使う。
腰に強い痛みがあったとすれば、パンチを打てているからといって「普段どおりに戦えている」とは限らない。
今回の小國を見ていて感じたのは、パンチそのもの以上に、その前後の動きに影響が出ていたのではないかということだった。
技術では戦えている。それでも見た目では不利になる
これは採点を断定する話ではない。
ただ、ボクシングにはどうしても「見栄え」がある。
サンティシマがパンチを出す。
小國がガードする。
クリーンヒットではなくても、小國の身体が大きく崩れる。
そうなると、見ている側にはサンティシマの攻撃が強く印象に残る。
逆に小國はジャブやボディを当て、相手を下げることができても、そこから連続して追い込めない。
相手を下げたのに追えず、再び距離が開いてしまう。
この差は大きかったように思う。
パンチを当てる技術が失われているわけではない。それでも試合全体では苦しくなっていく。
今回の試合には、そんな難しさがあった。
そして、サンティシマもそこを逃さなかった。
前へ出て距離を潰し、手数を出し、小國の打ち終わりを狙う。
小國が自由に距離を作れない状況の中で、自分の強みを押しつけ続けたことは評価すべきだと思う。
それでも小國がペースを握る時間はあった
腰の状態ばかりに目を向けると、この試合の見え方を狭めてしまう。
実際には、小國が自分のボクシングをできていた時間もあった。
特に3ラウンド。
ジャブでサンティシマを下げ、ワンツーから左ボディへつなぐ。
サンティシマの打ち終わりにはパンチを返し、自ら前へ出る場面も増えていった。
クロスレンジでの打ち合いでも、小國がいいパンチを当てる場面がある。
中間距離ではジャブ。
そこからストレート。
さらに左ボディ。
小國らしい組み立ては、この試合でも随所に見えていた。
だからこそ私は、単純に
「サンティシマに押し切られた試合」
だけでは片づけにくいと感じた。
8ラウンド、小國は勝負に出た
そして最終8ラウンド。
小國は勝負に出た。
ここまでの展開を踏まえ、自ら前へ出る。
ジャブで距離を取るだけではなく、サンティシマとの距離を詰めてパンチを交換する。
右を振り、左ボディを叩く。
サンティシマも応戦する。
腰に問題を抱えながらも、小國は最後まで自分の武器を使って勝負しようとしていた。
しかし終盤、サンティシマの右を受けて小國が後退。
そこでレフェリーが試合を止めた。
この場面についても、
「パンチは効いていなかった」
「腰のせいでよろけただけだった」
と外から断定することはできない。
レフェリーはリング上で選手の状態を最も近くから見ている。
ストップそのものを否定するつもりもない。
ただ、一視聴者として試合全体を見終えたとき、どうしても一つの「もし」が残った。
試合中に腰を痛めていなかったら、この試合はどうなっていただろう。
「腰さえ悪くなければ勝てた」とは言えない。それでも……
サンティシマが勝った。
この結果は動かない。
そして、サンティシマ自身が前へ出続け、小國の打ち終わりを狙い、手数を出し続けたことも勝利につながった。
だから、
「腰さえ悪くなければ小國が勝っていた」
と断定するつもりはない。
ボクシングに「もし」はない。
それでも、試合を見返した私の印象としては、小國のボクシングそのものが通用しなくなった敗戦には見えなかった。
ジャブは当たる。
ボディも当たる。
相手を下げる場面もある。
クロスレンジでもパンチを返せる。
8ラウンドには勝負にも出た。
だからこそ、残念だった。
技術そのものを失って負けたようには見えなかったからだ。
私が知っている小國以載は、明るいだけの人ではない
ここからは、試合内容とは少し違う話をしたい。
私がボクシングトレーナーとして仕事をしていた頃、小國選手が臨時で会員さんのミットを持つことがあった。
テレビやYouTubeなどで見る小國選手には、どこかおちゃらけた印象がある。
実際、明るくて面白い人だ。
でも、私がそのとき見た小國選手の印象は少し違った。
非常に真面目な人だった。
会員さんに接する姿を見ていても、ボクシングに適当に向き合っているような人にはまったく見えなかった。
その姿を見て、私は小國選手にすごく好感を持った。
そして、小國以載というボクサーを見ていて、今でも強く記憶に残っている瞬間がある。
ジョナタン・グスマンとの世界戦だ。
世界王者になった瞬間の「安堵した表情」
2016年12月31日。
小國はIBF世界スーパーバンタム級王者ジョナタン・グスマンに挑戦した。
小國は左ボディでダウンを奪い、判定勝ちで世界王座を獲得する。
でも私が忘れられないのは、勝ったという事実だけではない。
試合終了のゴングが鳴ったあとの小國の表情だ。
ダウンも奪っていた。
勝利を確信して、派手に喜んでもおかしくない。
それでも私には、喜びを爆発させたというより、
「終わった……」
とでも言うような、安堵した表情に見えた。
もちろん、これは本人に確認したわけではない。
あくまで私があの試合を見て感じたことだ。
でも、その表情がずっと頭に残っている。
明るいキャラクターの裏から漏れ出していたもの
小國選手は明るい。
話も面白い。
自分自身を笑いのネタにすることもある。
でも、あのグスマン戦の表情を見ると、その裏側にあるものを考えてしまう。
世界戦までどれだけ練習したのか。
どれだけプレッシャーがあったのか。
リングへ上がるまで何を考えていたのか。
それは本人にしか分からない。
ただ、あのゴング直後の表情からは、ボクシングに真剣に向き合ってきた一人の男の姿が、隠し切れずに出ていたように私には見えた。
普段どれだけおちゃらけていても、リングでは隠せない。
明るいキャラクターの裏にあるものが、リングの上では隠し切れないくらい漏れ出してしまう。
今回のサンティシマ戦を見ていて、私は改めてあの表情を思い出した。
それでも、まだ小國以載を見たい
今回の敗戦を受け、小國がこれからどのような決断をするのか。
現時点で進退を明言していないのであれば、こちらから決めつけることはできない。
身体の状態もある。
年齢もある。
世界を目指してきた選手だからこそ、本人にしか分からないものもあるだろう。
だから、外から簡単に「続けてほしい」と言うことも少し違うと思っている。
それでも、一人のファンとして言うなら、
私は、まだ小國以載のボクシングを見たい。
今回の試合にも、小國らしいジャブがあった。
左ボディがあった。
相手の動きを見ながらパンチを組み立てる技術があった。
そして8ラウンドには、自ら勝負に出た。
結果は敗戦だった。
それでも、小國以載というボクサーが積み上げてきたものまで消えてしまったようには、私には見えなかった。
進退についてどんな決断をするのかは分からない。
もし、これが最後なら、その決断を尊重したい。
でも、もう一度リングに上がるのなら。
私はまた、小國以載のボクシングを見たいと思う。


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