ボクサーにロードワークは必要か?研究と元プロの経験から考える

ボクサーにロードワークは必要か?研究と元プロの経験から考える

「ボクサーなら走らなければいけない」。私も現役時代は、そう思ってロードワークを続けていました。では、試合で戦うために、長い距離を走ることは本当に欠かせないのでしょうか。

私の答えは、ロードワークは役に立つ。ただし、何のために走るかを考えることが大切です。試合で求められる体力を研究から見たうえで、私自身が走り方を変えて感じたことをお話しします。

目次

ボクシングは「短いパンチの競技」だけではない

試合で目を引くのは、一瞬で勝負を変えるパンチです。でもリングでは、その一発を出すまでにも、距離を測り、相手の攻撃を避け、次の動きに備えています。それをラウンド中、何度も繰り返します。

男性のアマチュアボクサー10人による3分×3ラウンドの試合を調べた研究では、使われたエネルギーの約73%が有酸素系から供給されたと推計されています。もちろん、この数字をプロの4回戦や12回戦にそのまま当てはめることはできません。ただ、ボクシングでは瞬発力とともに、動き続けるための体力も大きな役割を持つと分かります。Bruzasらの研究

ボクシングは瞬発力だけの競技ではない

脚にも注目した研究があります。プロボクサー10人がミット、サンドバッグ、スパーリングをそれぞれ6ラウンド行い、太ももの筋肉の酸素状態を測ったものです。ラウンドが進むにつれて筋肉の反応には変化が見られました。パンチを何発出したかだけでは、練習中の脚の負担は分からない。そんなことも、この研究から読み取れます。練習中の脚の研究

後半になっても足を使い、パンチを出す。そのための体力づくりは、ボクサーにとって大事です。

その体力をつけるには、走るしかない?

ここは分けて考えたいところです。ボクシングに持久力が必要だからといって、長距離走が唯一の答えになるわけではありません。

プロボクサーを対象にした小規模な研究では、普段の練習に自転車での短い高強度運動を加えると、トレッドミルで疲れるまで動ける時間などが改善しました。ただし、試合での勝敗やロードワークとの優劣を調べた研究ではありません。走る以外の練習でも、体力を伸ばせる可能性を示した結果として読むのがよさそうです。自転車を使った練習の研究

また、経験のあるアマチュアボクサーを対象にした研究では、サンドバッグに短い強打を繰り返す練習によって、パンチを続けて出す能力などが改善しました。私はロードワークと、パンチを出しながら動く練習を、それぞれの目的を考えて組み合わせたいと思います。パンチを繰り返す練習の研究

ロードワークは、私にとって使いやすい練習でした。ですが、走った距離が長ければ試合でも動ける、とは言い切れません。ミットやスパーリングで何ができて、どこで苦しくなるのかも見たいところです。

走る前に、リングで困っていることを考える

同じ「スタミナがない」という悩みでも、苦しくなる場面は人によって違います。

スクロールできます
リングで困る場面練習で考えたいこと
後半になると足が止まるジムワークとの兼ね合いを見ながら、動き続ける体力をどう鍛えるか
連打のあとに動けないミットやサンドバッグで、パンチと移動を続ける練習ができているか
下がったあと、すぐ前に踏み直せない後退から前進への切り替えを、フットワーク練習で確かめられるか

例えば、パンチを出したあとだけ動けなくなるなら、ただ走る距離を延ばす前に、パンチと足を一緒に使う練習を見直したいところです。自分がどこで苦しくなるかが分かると、ロードワークに求める役割も見えてきます。

私はB級になってから、走り方に目的を持った

私も最初から、そこまで考えていたわけではありません。4回戦時代は「ボクサーは走るもの」という気持ちで走っていました。B級になってから、自分のボクシングとロードワークを結びつけて考えるようになりました。

現役時代は週5~6回、普段は10~12km走っていました。ペースの目安は、1kmあたり5分台にならないこと。スマートウォッチで距離とタイムを測っていました。

私は距離を取りながら戦うことが多く、後ろへ下がってから前へ踏み直す動きを使っていました。そこで、前へ走るだけでなく、後ろ向きの移動やサイドステップ、後退から前へのダッシュも取り入れました。スパーリングでは、下がってから踏み直す足の粘りや、前に切り替える速さに手応えがありました。

ロードワークをリングの動きにつなげる

もちろん、ジムでの練習も重ねていたので、その変化をロードワークだけの成果とは言えません。それでも、リングで使いたい動きを考えながら走るようになったことは、私にとって大きな違いでした。走り終えたときに「今日も練習できた」と思えることも、試合前の不安を和らげてくれました。

ただ、走れば走るほどよかったわけでもありません。減量の仕上げに近い時期、遠くまで走ったものの、帰りは走れず数kmを歩いて帰ったことがあります。当時の私は距離をこなすことに気持ちが向きすぎて、自分の状態を見て距離を変える余裕がありませんでした。週5~6回、10~12kmという数字も、私が当時行っていた練習であって、誰かに勧める基準ではありません。

まとめ|ロードワークは、自分の課題につなげて使う

ボクシングには、瞬発的にパンチを出す力と、ラウンドを通して動き続ける体力の両方が必要です。ロードワークは後者を鍛える一つの方法ですが、走るだけでリングの動きが完成するわけではありません。

私はロードワークを続けてよかったと思っています。特にB級になってからは、ただ距離をこなすより、下がってから前へ出る自分の動きにつなげることを意識しました。

「走るべきか」と迷ったら、まずはスパーリングを振り返ってみてください。足が先に止まるのか、連打のあとに苦しくなるのか。その答えに合わせて走り方やジムワークを考えるほうが、毎日何km走るかを先に決めるより、練習の意味がはっきりするはずです。

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この記事を書いた人

元A級プロボクサー。26歳のとき、会社員として働きながらダイエットを目的にボクシングを始め、28歳でプロライセンスを取得。29歳でデビューし、37歳を目前に引退した。プロ通算戦績は15戦5勝8敗2分。

本業では、企業オウンドメディアのYouTubeスポーツ番組でディレクターを務める。RING LIVERARYでは、自身のリング経験とコンテンツ制作の知見をもとに、主に後楽園ホールで行われる国内興行の試合結果・戦評や注目選手の解説を発信。結果だけでなく、勝敗を分けたポイントや技術的な見どころまで、元プロの視点から掘り下げています。

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