ボクシングの練習というと、息が上がるまでサンドバッグを打ち、がむしゃらに汗を流す姿を思い浮かべる人もいると思います。
私自身も現役生活の途中までは、一生懸命練習しているつもりでした。しかし今振り返ると、何を身につけるための練習なのかが曖昧で、内容は薄かったと感じています。
転機になったのは、練習前に課題を明確にし、スパーリングの映像を見ながら次の課題を決めるようになったことです。待ってカウンターを狙うだけだった戦い方を見直し、自分から試合を組み立ててカウンターを取る形へ変えていきました。
その後、私は6連敗のあとに2連勝できました。課題設定だけが勝因だったとは言い切れませんが、この結果によって、練習の仕方や考え方に自信を持てるようになりました。
課題を決めることは、試合を目指す選手やスパーリングをする人だけに必要なものではありません。ボクシングを始めたばかりの人や、ダイエット・体力づくりを目的にしたボクササイズでも使える考え方です。
この記事では、元A級プロボクサーとしての経験をもとに、練習前の課題設定から振り返りまでの流れを紹介します。
この記事を書いた人

HIDEAKI TAKAGI
元A級プロボクサー。ボクシング歴10年、プロ歴7年半。
会社員として働きながら、26歳のときにダイエット目的でボクシングジムへ入会。未経験から競技を始め、28歳でプロライセンスを取得。
2014年10月、29歳でプロデビューし、初戦から2連勝。その後は勝敗を重ねるなかで6連敗を喫し、ジムを退会して引退。
しかし、35歳で現役復帰。37歳の定年を迎える直前までリングに立ち、通算15戦5勝8敗2分の戦績で現役生活を終えました。
結論|その日の「主課題」を一つ決める
課題設定と聞くと難しく感じるかもしれませんが、細かな練習計画を作る必要はありません。
練習を始める前に、次の問いへ答えられれば十分です。
今日の練習で、何を一つ試すのか?
たとえば、次のような内容です。
- パンチを打ったら、すぐにガードを戻す
- ワンツーのあとに左へ動く
- サンドバッグを打つときに息を止めない
- 力まずに一定のペースで動く
- 相手のジャブに右ストレートを合わせる
練習中にはトレーナーから複数の指示を受けることもあります。そのため、課題を一つに限定するというより、その日に最も意識する「主課題」を一つ決めておくという考え方です。
主課題が明確なら、練習後に実行できたかを確認し、次の練習へつなげられます。
課題を意識するまでは、一生懸命でも中身が薄かった
以前の私は、決められたメニューをこなし、疲れるまで動くことが練習だと思っていた部分があります。
もちろん、運動量を確保することや最後までやり切ることも必要です。しかし、ただ疲れただけでは、自分の弱点を一つ克服したことにはなりません。
何も考えずにスパーリングをすると、「今日は調子がよかった」「相手に押された」といった感想だけで終わることがあります。それでは、何ができて何ができなかったのか、次は何を変えるのかが残りません。
課題を克服する過程があってこそ、練習が強くなるための一段階になります。
課題を意識するようになってからは、練習量だけでなく、その日の練習で何を試し、どこまでできたのかを見るようになりました。
待つカウンターから、自分で試合を作るカウンターへ
私は、相手の攻撃を待ってカウンターを狙うタイプのボクサーでした。
相手が攻めてきたら、それに反応してパンチを返す。カウンターを取ること自体は自分の持ち味でしたが、待ちの姿勢が多くなると、試合の主導権を相手へ渡しやすくなります。
そこで設定した課題が、自分からボクシングを組み立て、その中でカウンターを取ることでした。
ただ相手が来るのを待つのではなく、自分からジャブやフェイントを出して相手を動かす。自分が作った流れの中で相手の攻撃を引き出し、カウンターを合わせる形です。
同じカウンター狙いでも、相手の動きに反応するだけなのか、自分から相手を動かして狙うのかでは意味が違います。
この戦い方を課題として練習し、試合でも使える形へ近づけていきました。その後、6連敗のあとに2連勝できたことで、自分の練習方法に手応えを持てるようになりました。
勝敗には相手との相性やコンディションなども関係するため、課題設定だけで連勝できたとは考えていません。それでも、自分で考えて練習したことが結果につながった経験は、大きな成功体験になりました。
スパーリング映像から次の課題を決めていた
トレーナーからスパーリング前に「今日の課題は何ですか?」と聞かれても、私はその場で答えられていました。
前回のスパーリング映像を確認し、次のスパーリングまでに何を直すのかをあらかじめ考えていたからです。
週1回のジム練習が、1週間単位のPDCAを生んだ
私がこの振り返りを続けられた背景には、練習環境の変化があります。
コロナ禍が明けた頃、私はそれまで通っていたジムから離れた場所へ引っ越しました。仕事との両立もあり、トレーナーと一緒に練習できるのは週1回が中心になりました。
そこで、週1回のジム練習をスパーリングに充て、次の土曜日までの1週間を自主トレの期間として使うようにしました。
土曜日にスパーリングを行い、その映像を見て課題を明確にする。平日の自主トレでは、シャドーやサンドバッグなどで課題に取り組み、次の土曜日にもう一度試す。この1週間単位の流れが、自分にとって練習のPDCAになりました。
この流れを図にすると、以下のようになります。

実際には、次の手順で取り組んでいました。
- 土曜日にスパーリングを行う
- 当日から翌日に映像を見直し、できなかった動きや繰り返している癖を確認する
- 次回の主課題を決め、1週間の自主トレでシャドーやイメージトレーニングへ落とし込む
- 次の土曜日に試し、再び映像で確認する
いわゆるPDCAですが、難しく考える必要はありません。「映像を見る→課題を決める→練習で試す→もう一度確認する」という繰り返しです。私は生活環境の変化から、1週間単位でPDCAを回していました。ただ、次の練習までの間隔が短い人は、2〜3日で振り返っても構いません。大切なのは日数ではなく、自分が続けやすい間隔で振り返ることです。
映像を撮れない場合も、練習直後に「何ができなかったか」「次に何を試すか」をスマートフォンへ一言残しておけば、次回の課題を決めやすくなります。
ジムへ行くことは目的ではなく、強くなるための手段だった
ボクシングを始めた頃の私は、ジムへ行くこと自体が目的になっていました。
仕事が忙しい時期は、練習へ行くだけでも大変です。まずジムへ足を運ぶことが継続の目標になる時期もあるため、それ自体を否定するつもりはありません。
ただし、自分の目的が「ボクシングで強くなること」なら、ジムへ行くことはそのための手段です。ジムへ行って決められたメニューをこなしただけで満足すると、課題が残ったままでも練習した気分になってしまいます。
何のためにジムへ行き、今日の練習で何を変えるのか。そこまで考えるようになってから、限られた練習時間の使い方が変わりました。
フィットネス目的でも考え方は同じです。ストレス発散が目的なら、気持ちよく汗をかけたことが一つの成果になります。体力づくりやフォームの改善が目的なら、それに合った課題を決める必要があります。
大切なのは、他人と同じ目的を持つことではなく、自分がジムへ通う目的と、その日の練習内容を一致させることです。
試合1か月前からは新しい課題より精度を上げる
私の場合、試合まで時間がある時期に課題を見つけ、新しい動きへ挑戦していました。
一方、試合が近づいてからも新しい課題を探し続けていると、試合で使える形として定着しないまま本番を迎える可能性があります。
そのため、試合のおよそ1か月前からは、取り組んできた動きの精度を上げ、自分の武器として定着させることを目的にしていました。
課題を増やす時期と、できることを磨く時期を分ける考え方です。
これは私が現役時代に行っていた調整方法であり、すべての選手に同じ期間が適しているとは限りません。試合前の調整は、トレーナーの方針や選手の状態によって変わります。
課題に固執せず、自分の動きへ組み込む
課題を意識しすぎて、スパーリングで動けなくなったことはありません。
課題だけを無理に実行しようとするのではなく、シャドーやミットの段階から、自分の普段の動きへ組み込むイメージを作っていたからです。
たとえば、「左ボディーのあとに右を返す」が課題でも、スパーリング中に左ボディーばかり狙うわけではありません。普段のジャブやステップで試合を組み立て、使える場面が来たときに試します。
課題は普段の動きを捨てて無理に実行するものではなく、自分のボクシングの中へ加えていくものです。
初心者やフィットネス目的の人も同じです。「ガードを戻す」ことだけに集中して体が固くなるなら、動き全体の中で一つずつ確認する方がよいでしょう。
ボクシング練習の課題を決める3つのポイント
1.実行できたか判断できる言葉にする
「うまく動く」「きれいに打つ」「頑張る」では、練習後の判断基準が曖昧です。具体的な動作へ置き換えると確認しやすくなります。下記は例になります。
| 曖昧な課題 | 実行しやすい課題 |
|---|---|
| ガードを意識する | ワンツーのあとに両手を顔へ戻す |
| 足を使う | コンビネーションのあとに左へ動く |
| 力まない | サンドバッグを一定のリズムで打つ |
| ボディーも打つ | ワンツーのあとに左ボディーをつなぐ |
| カウンターを狙う | 相手のジャブに右ストレートを合わせる |
2.現在の練習で繰り返せる内容にする
構えが安定していない段階で、複雑なカウンターや長いコンビネーションを主課題にしても、基本動作が崩れる可能性があります。
初心者なら、次のような課題から始められます。
- あごを上げずに構える
- パンチを打つときに息を吐く
- 打った手を元の位置へ戻す
- 足を交差させずに前後左右へ動く
- 疲れても決めたフォームを保つ
今の練習で何度も試せる内容を選び、できたかどうかはトレーナーにも確認してもらいましょう。
3.練習後の振り返りまでをセットにする
課題は、決めただけでは次へつながりません。練習後に次の3点を確認します。
- どの場面で実行できたか
- できなかったときに何が起きていたか
- 次回も続けるか、別の課題へ進むか
達成できなかった日も、理由が分かれば収穫があります。「疲れると右手が下がった」「相手が前へ出ると足が止まった」と気づけば、それが次の課題になります。
自分では修正点が分からない場合は、トレーナーに「今日、一つ意識するなら何ですか?」と聞く方法もあります。
練習別|初心者やフィットネスでも使える課題例
シャドーボクシング
- ジャブを打ったあとに頭の位置を変える
- パンチだけで終わらず、足も動かす
- 鏡を見ながら右手が下がっていないか確認する
パンチを避けるときに頭の位置や距離がなぜ重要なのかは、以下の記事で詳しく解説しています。
なぜボクサーはパンチを避けられるのか?頭の位置と距離感のカラクリ
ミット打ち・サンドバッグ
- 強く打つことより、フォームを崩さない
- コンビネーションの打ち終わりにガードを戻す
- 息を止めず、一定のリズムで打つ
スパーリング・マスボクシング
- 相手のジャブに右ストレートを合わせる
- 左ボディーのあとに右を返す
- 下がり続けず、自分の距離を保つ
- パンチをもらった直後に慌てて打ち返さない
ボクササイズ・フィットネス
- 指示された時間、一定のペースで動く
- パンチを打つたびに息を吐く
- 疲れてもフォームを大きく崩さない
- 前回指摘された動きを一つ修正する
フィットネス目的でも、「今日は何を意識するか」を決めれば、疲労感だけでなく、できるようになった動きでも練習を振り返れます。
練習用グローブの重さに迷っている人は、用途別のオンスを以下の記事で紹介しています。
ボクシンググローブは何オンス?初心者・ボクササイズ向けの選び方
運動に慣れていない人は、回数や強度を無理に上げないでください。痛みや体調不良がある場合は練習を中止し、ジムのトレーナーや必要に応じて医療機関へ相談してください。
まとめ|一生懸命な練習に中身を持たせる
私は課題設定を意識するまで、一生懸命練習していても、今振り返れば中身が薄かったと感じています。
練習の考え方を変え、待つだけだったカウンターを、自分から試合を作ったうえで狙う形へ変えていきました。その後、6連敗のあとに2連勝できたことは、自分で考えて練習することへの自信につながりました。
トレーナーと練習できるのが週1回になった時期には、土曜日のスパーリング映像から課題を見つけ、1週間の自主トレで修正し、次の土曜日に試す流れを作りました。練習環境が限られたことで、かえって一回ごとの目的を考えるようになったのだと思います。
課題設定で大切なのは、次の流れです。
- その日に最も意識する主課題を一つ決める
- 普段の動きの中で実行できる形まで練習する
- 練習やスパーリングのあとに振り返る
- 見つかった問題を次の課題へつなげる
- 試合が近づいたら、新しい課題より精度を上げる
これはプロ選手だけの考え方ではありません。ボクシング初心者やフィットネス目的の人も、「今日何を一つ試すか」を決めることから始められます。
ただ汗をかいて終わるのではなく、一つの課題を持ち帰る。その繰り返しが、練習へ中身を持たせると私は考えています。


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